旅の創造力
2009年度春学期は、「旅の創造力」という観点から、「場所(place)」の問題について考えたいと思います。ここでいう「旅」は、休暇中に出かける海外旅行のような、比較的大がかりな「旅」もふくまれますが、むしろ、もっと身近な、ちいさな「旅」に着目するつもりです。それは、まちに点在する、わずか数十秒の抜け道かもしれないし、路地裏にある「隠れ家」レストランを探す、道中かもしれません。気まぐれに、教室の「外」に出ておこなう(芝生の上に輪になって座って語るような)授業も、スポーツクラブで、仕事のことを忘れて(忘れるために)汗を流すひとときも、ひとつの「旅」だと考えてみます。じつは、「旅」は、ぼくたちの生活のなかで、ごく身近なところにある〈時間・空間〉なのです。まずは、ふだんは、「旅」として意識していないような〈時間・空間〉について、あらためて目を向けてみることにします。
どれほどささやかでも、「旅」は、ドキドキします(「旅」の支度をするときから、このドキドキがはじまることもしばしばです)。このドキドキは、いつもとちがった体験への期待や、よくわからない場所への不安などからなる、複雑な感情をともなうことが少なくありません。また、「旅」に出ると、少し大胆になったり、ふだんのじぶんを再発見したりもします。その意味で、「旅」は、さまざまな非日常性を体験をするための「仕組み」だと言えるでしょう。
「旅」という〈時間・空間〉は、どのように構成されるのか。どのような「仕組み」として理解することができるのか。こうした問いかけをしながら、「旅」という体験が、ぼくたちの「創造力」とどのように関わっているかについて考えます。
たとえば、〈時間・空間〉を整備する「仕組み」は、ひと(誰と一緒に行くか)、モノ(どのような装備で出かけるか)、作法(どのように過ごすか)が、相互に関連しながらかたちづくられると理解することができます。上手いバランスで、これらの要素がえらばれ、組み合わせられたとき、「旅」は印象ぶかいものになります。そして、規模や内容に関わらず、よい「旅」をして、非日常性を知ることが、けっきょくのところは日常性を理解することにもつながるはずです。予想以上に規則的で、「あたりまえ」に満ちあふれた日常を、しばし抜け出すための「仕組み」として、「旅」があります。
さまざまな「旅」が、どのように構成されるかについて調査をおこない、その上で、「旅」という「仕組み」のデザインについて考えます。(上述のとおり、ここで言う「旅」は、ごく日常的な〈場面〉に関わるものとして考えているので、「仕組み」のデザインは、いわゆる「ガイドブック」的なものをつくることではありません。むしろ、日常のコミュニケーションのあり方や、道具立てなどの「全体」のデザインを試みるということです。)
成果をまとめる
詳細は、履修者が確定してから決めるつもりですが、2009年春学期は、「旅の創造力」をテーマにした冊子(もしくはフリーペーパー的な媒体)を企画、編纂します。これまでも、研究会の成果は、冊子などにまとめてきましたが、それは、もっぱらじぶんたちの記録としての意味を重視したものでした。(いわゆる「レポート集」として、みんなで成果を共有するために、綴じたものです。)
今回考えているのは、もう少し広い範囲に「読者」を想定した冊子やフリーペーパーです。フィールドワークを中心的な活動に据えて、さまざまなまちを歩く試みは、5年目に入ります。これまで、調査の過程で出会い、お世話になった人びととの関係を維持する意味でも、この刊行物は重要な意味を持つでしょう。「旅」は、続けること、(行動範囲を)拡げることによって、その楽しさも奥深さもわかってきます。できるかぎり、成果をまちに還すことを意識してきましたが、それを少し整理するためにも、そろそろ、もう少しちがった「読者」を意識した媒体について、考えはじめることにしました。
内容、構成等については春学期をつうじて、みんなで考えて、8月中旬(遅くとも秋学期がはじまるまで)には、刊行したいと思います。編集という作業において、フィールドでの体験を「ことば」にすることが求められます。そのときこそ、フィールドワークの意味や、「創造力」の問題について考える、貴重な機会になるはずです。


詳細をみる
2008年春のキャンプ
前のページへ