まちのおみやげ ::: はじめに

はじめに

まちでの経験は、どのように記憶されるのか。そして、まちへの親近感や愛着は、どのように育まれるのか。最近は、そんなことを想い浮かべながら、まちを歩いている。やはり、あの日から変わったのかもしれない。今まで以上に、まちの風景を考える。
研究会(ゼミ)では、これまでと同じように、まちや地域の人びととの関わり方について、調査研究をすすめている。2011年度秋学期は「おみやげ・グッズをつくる」というテーマのもと、5つのグループに分かれて墨田区京島界隈のフィールドワークをおこなった。

「リマインダー(reminder)」としてのおみやげ

ぼくたちの身の回りには、写真や日記、手紙などのさまざまな記録があって、じぶんの経験を思い出すのに役立つ。最近では、動画や音声なども日常生活のなかで記録され、蓄積されるようになった。また、おみやげのように、旅先で買ったり、もらったりするモノも少なくない。過去を思い出す手がかりとなるモノは、たくさんあるのだ。
みやげものの研究をしたヴェバリー・ゴードンは、おみやげや記念品を「リマインダー」であると性格づけた。つまりそれは、旅先での時間と空間が凍結されている〈思い出喚起物〉である。実際に、ふと目にするだけで、モノに閉じ込められていた、滞在中の出来事や風景への想いがふたたび温かみを帯びて、鮮明によみがえってくることがある。まちに出かけて、「何か」を持ち帰っておけば、いずれ、追体験をするのに役立つはずだ。

「トークン(token)」としてのグッズ

おみやげは、思い出を凝縮して持ち帰るためのモノだが、じつは、出かける前にも、ぼくたちはさまざまなモノと関わりをもつ。本当は、あまり事前に準備をせずに、現場での出会いを大切にしたほうがいいのかもしれない。だが、支度をしながら、旅先での出来事にあれこれと想いを馳せるのも愉しい。
ぼくたちは、まちの雰囲気に合わせて服装をえらんだり、イベント用にグッズを揃えたりする。まちへの親近感や愛着は、「何か」を持ち帰るだけではなく、「何か」を準備し携えることにも表れるはずだ。だから、いろいろなグッズについても考えてみたほうがいい。
グッズは、ぼくたちを現場へと誘う「トークン」だと考えることができる。それは、まちへ入るための〈通行証〉のようなものだ。特別なモノがあることで、まちを身近に感じることができる。また、それを携行していることで、違和感なくまちにとけ込むことができる。グッズも、まちに近づくための装備になる。

まちや風景を語るきっかけ

「リマインダー」も「トークン」も、一人ひとりの内面にだけ収められているわけではない。個人的な感情が充たされたおみやげは、そっとしまっておいたほうがいいのかもしれない。とっておきのグッズは、密やかに眺めたい。だが、重要なのは「リマインダー」も「トークン」も、まちでの経験や旅への想いを、誰かと語るきっかけになるという点だ。引き出された記憶を、誰かと共有し語ることによって、息づく過去があるはずだ。出発前の、はやる気持ちは、抑えきれずに誰かに伝えたくなるものだ。
07_omiyage.jpg『まちのおみやげ』(2012)今回の課題では、フィールドワークをつうじて、まちのなかで、(有形・無形の)素材をさがし、それをおみやげやグッズとして仕立てることを試みた。墨田区京島という個性的なエリアを対象としているが、おなじ発想で向き合えば、他のさまざまな文脈でも、おみやげやグッズによって、コミュニケーションを誘発できるのではないかと考えている。まずは、その入口の扉を叩いたということだ。この冊子に収められたアイデアのなかには、さらに磨きをかければ、実際にまちで広がりを持ちうるものもふくまれているだろう。
未来をつくってゆくためには、過去を復原する想像力が必要だ。あたらしいヴィジョンにワクワクできるような、シンボリックなモノも欠かせない。さまざまな「リマインダー」や「トークン」を介して、誰かと向き合い、語ること。そのきっかけづくりについて、丁寧に考えることが、ぼくたちの仕事なのだ。

・つづきはPDF版で: [まちのおみやげLinkIcon]

さらにくわしい調査結果は、2012年2月3日(金)〜5日(日)に開催された「フィールドワーク展VIII:栞」(ギャラリー やさしい予感)で展示するとともに、成果をまとめた冊子『まちのおみやげ』(A5変型・24ページ)を配布しました。

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